燭台切光忠と御手杵が一緒にご飯を食べるようになった話

□ 諸注意 □

  • 刀の譲渡がある
  • 多振り教、一振り教についての描写がある
  • 燭台切光忠が少し頑張りすぎて自分で追いつめている
  • 御手杵が他槍を苦手に思う描写がある
  • 極じゃない
  • カップリング要素なし
  • 御手杵は素。幼女。いいな?
  • 小説の視点が変わる
  • 燭台切光忠がゲシュタルト崩壊する
  • 他刀剣男士を貶めるような意図はありません
  • 地雷がありそうな人は避難しましょう
  • 万が一地雷があった人へ、深呼吸して納豆食べてください

【三人称燭台切視点 】

燭台切光忠はカッコよく決めすぎてしまった。

 

燭台切光忠という男士は、ビシッと決めた黒いスーツのような戦装束を身にまとい、顔立ちはキリッとしていて一見近づき難くも見えるが、面倒見がよく人好きのする性格。というのが大半である。
当本丸の燭台切光忠も、もれなくその通りであった。
ただし刀剣男士には同じ刃物であろうと、【個体差】というものがある。
たとえば歌仙兼定という男士がいる。
彼は雅を大切にする一方で、彼のことをゴリラと称する審神者もいる。
つまり同じ歌仙兼定であろうと、雅値の高い歌仙兼定・ゴリラ値の高い歌仙兼定・同値の歌仙兼定が存在する。
―――等といった具合である。
話は戻り、当本丸の燭台切光忠だ。彼にも偏った個体値がある。
それが「格好よく決めたいよね」
これだ。
誰に対してもこれを徹底している。
否、してしまったのだ。
故に当本丸の燭台切光忠という男は、完璧でかっこいい刀というイメージが定着してしまった。
それはこの本丸が62振り配布本丸ということ。燭台切光忠は、友人の古参審神者に譲渡された刀。という数奇なめぐりあわせもあったからだろう。
燭台切光忠が譲渡されたのは当本丸の主が審神者になってから数ヵ月後のことだ。
この頃の第一部隊のレベルは35前後。燭台切光忠のレベルは99。
本丸へ譲渡されたばかりの新参者ではあったが、人としての顕現年数・戦への歴戦がある。故に誰よりもしっかりとしなければならなかった。
そして出来上がった燭台切光忠への人物像といえば「気配りのできる教育係で戦闘では圧倒的に強く戦況を冷静に判断し、料理のレパートリーが多く、しかも美味い。デザートもあるしおやつまで作ってくれる新人の先輩」
そう、他の刀からみれば完璧超刃である。
そんなイメージを今更壊すことなど燭台切光忠にできるわけがない。
だから今まさに困っていた。


(納豆が食べたい!!!!!)
この燭台切光忠は期待されればそれに応え「格好よく」を貫くために、食べたいもの・やりたいことを我慢するきらいがある。
そんな燭台切光忠の大好物が納豆であるのだが、この本丸に引き渡されて1年、納豆を我慢し続けているのである。
(納豆.........食べたいなぁ。夕餉に納豆を)
考えて燭台切光忠はかぶりを振る
(今から買いに行くのもなぁ、納豆が苦手な子たちも多いし.........それに格好いい"燭台切光忠"―――彼は納豆を食べない)

元いた本丸は多振り教であった。
多振り教とは同じ刀剣男士を複数顕現させ、所持すること。
一振り教は反対に、一振りずつしか所持しないこと。である。
(この本丸にとって、僕は一振り目なんだから)


鶏鳴、丑二つ時。

皆寝静まり、月明かりと景趣の蛍が本丸を照らいている。
きし、きし、きし
(?)
微かに床が軋む音に燭台切光忠は目を覚ました。


夜目は利かないので音のする方向へ耳を澄ませる。
きし、きし
(誰だろう、厨?)
足音は厨へと向かう
(お腹でもすいたのかな。夕餉の時間早めだったし、あ...足りなかったかな)
ふいに朝餉用に仕込んでおいた味つけ玉子が頭に過る。
(味玉、人数分しか仕込んでないから食べられちゃったら明日足りなくなっちゃう!)
燭台切光忠は同室の鶴丸国永を起こさぬよう、音を殺し部屋を出る。
余談、この部屋について。一応伊達部屋ではあるのだが、実質二人部屋のような状態である。
というのも、現状空き部屋の長船部屋を大俱利伽羅が使っているのだ。そして太鼓鐘貞宗は貞宗部屋で寝ている。
閑話休題。
壁伝いに厨へ向かった燭台切光忠。
厨からは電気の光が漏れており、中からの物音もだんだん鮮明に聞こえてくる。
燭台切光忠の視界が犯人を捕らえた。
「御手杵くん?」
「げ!」
冷蔵庫を物色していた御手杵が振り返る。
右手に持っているのは危惧していた味つけ玉子だ。
「それ、冷蔵庫に戻そうか」
「うえぇぇ」
御手杵が落胆した様子で冷蔵庫へ戻す。
(ちょっと可哀そうだったかな。うん、今度からは多めに作っておこう)
「絶対合うのにな」
はぁ、と御手杵が溜息交じりに独りごちる。
「合う?」
「あ、あー.........あれ。」
あれ、と指さされた方向を見やる。
業務用炊飯器の横にはお茶碗に盛られたご飯と未開封の納豆パック。
「なっ!!??」
「お、怒るなよ~、換気するから!な?な??」
眉を八の字に下げた御手杵が両手を合わせる。が、燭台切光忠はそれどころではない。
目の前に納豆がある。買い置きなどしていないのに。あるはずのない、食べたくて仕方のなかった納豆。納豆が―――そこにある。
震えた。
「.........燭台切、さん?」
返答がないことを不思議に思った御手杵が燭台切光忠へと手を伸ばすと、その手が掴まれた。
「御手杵くん!僕も共犯者にして!」
「うえぇ?」


こうして、燭台切光忠と御手杵による秘密の納豆ライフが始まった。




【御手杵視点 】

第一印象と実際の人物像、結構差が......ギャップ?っていうのか?あるやつらが多いよな。 

中でも一番不一致だったのは光忠さんだな。
光忠さんの第一印象は一言で言えば完璧超刃だ。なんでもできる人。
だからかな、優しいのはわかってるんだけど少し苦手だった。
俺は刺すことしかできないからさ。
日本号とか蜻蛉切と同じ、あちら側だなって。
そんな印象だったな。
いやぁ、だからびっくりしたって!
うちの本丸、納豆苦手なやつが多いんだ。光忠さんもそうだと思ってたし、だからうちの本丸って基本納豆なんて置いてないんだよ。
でも無性に食べたくなる時があってさ。というか遠征の途中で売ってるの見かけて食いたくなった!で、こっそり買った。
夜に隠れて食べようとしてたら光忠さんに見つかったんだけど。
怒られると思った「夜中に何やってるんだ」って。しかも俺は匂いが凄い納豆食べようとしてるし。
そしたら
「僕も共犯者にして!」
いや、意味わからないだろ??
まぁ一緒に食べたんだけどさ。
光忠さん、すげぇ幸せそうに食ってたんだよ。納豆をだぞ?俺も納豆好きだけどさ、ここまで幸せそうに食うんだ、って。
この頃はとりわけ仲が良いわけではなかったけど、というか俺は勝手に苦手意識持ってたけど、飯を幸せそうな顔して食べる奴ではなかったと思う。
というか微笑むとかはあっても、こう―――心から笑う?みたいな?のがさ、うん。光忠さんの笑顔、初めて見たんだよ。
で、気が付いたら思ったことが口に出てたみたいで。
「納豆好きなのか?」って。そりゃぁそうなんだろう。好きじゃなきゃこんな顔して食べないよな。俺も好きなもんとか美味いもん食うと顔が緩む。人間の体って不思議だ。
すると光忠さんが少し困った感じで「皆には内緒にしてね」って。なんでだ?
俺が不思議そうにしてたのがわかったのか「格好悪い姿、見られたくないから」お願い、と光忠さんが頭を下げてきた。
どうしてそこまでして隠したいのか俺にはよくわからないけど、光忠さんにとっては大切なことらしい。
「わかった―――けどさ」
「うん?」
もう我慢し続ける必要ないんだよな?俺は知っちゃったわけだし
「また一緒に納豆食おうぜ」
「御手杵くん―――うん、約束だよ」


んで、日本号と蜻蛉切がいない時を見計らって、俺の部屋で納豆を食べることにした。
槍以外にも誰か部屋にいるかもしれないから、と畏まって来るから合言葉も決めた。
「御手杵くん、少しいいかな」
「いいぞ」これが俺一人のとき
「どうぞ」これは他の誰かが一緒にいるとき
ちょっと面白いだろ?


何回か密会(納豆食うだけなんだけど)するうちに光忠さんから自身の話を聞くことが増えた。
前の本丸では四振り目だったらしい。あー、折れたとかじゃなく.........多振り教?ってやつで。
うちの本丸は一振りずつしかいないから、どんな感じかは想像しかできないけど。
日本号と蜻蛉切がたくさんいたらって考えたら、今以上に肩身が狭い思いするのか?
で、その一振り目の燭台切光忠っていうのが光忠さんにとっての憧れる燭台切光忠像らしい。
「燭台...一振り目はね、いつもキリッとしてるんだ。教育係なんだけど作る料理もオシャレでね?イタリアンが得意で。納豆は食べないし.........極にもなった」
俺は相槌だけうつ。
「光...二振り目は穏やかで、厨にいることが多くて、和食が得意だった。み、三振り目は甘味が好きで、いつもいろんなものを作ってくれたよ。」
「燭台切さんは?」
「僕はほとんど三振りのお手伝いで」
「あー、そういうんじゃなくて」
光忠さんは小首を傾げた
「あっちの本丸にいたときはなんて呼ばれてたんだ?」

一振り目が燭台切。
二振り目が光忠。
三振り目がみ、みっちゃん?
だったとしたら。
「あんたはなんて呼ばれてたんだ?」
「.........言いたくない」
ふいと顔を背けるから表情が読めない
「じゃぁなんて呼ばれたい?」
「え、っと。―――名前がいい、です」
「燭台切光忠さん?」
「いや。燭台切とか光忠とかみっちゃんとか!フルネームは長いよ」
確かに長いよな。戦場とかでいちいち呼べないだろうし。
「光忠さん、って呼んでいいか?」
「あ、うん。ちょっとびっくりした」
「この本丸の燭台切光忠は光忠さんだけなんだからさ、ここの奴らが呼ぶ「燭台切」も「光忠」も「みっちゃん」も全部あんたのことだぞ。それに光忠さん他の三振り手伝って良いところ吸収してるじゃん。十分かっこいいって」
言い終わってちらりと光忠さんを見ると驚いたような表情をしていた。
なんだ?俺変なこと言ってないよな?
"光忠さん"呼びにまた驚いたのか?
まぁいいか
「光忠さん、桜が大変なことになってるぞ?」
床見えないんだが
「」
「え、息してるか?納豆おかわりいるか?」
「いる」


―――ってこともあった。
桜出しすぎると呼吸って止まるんだな。
納豆は常備するべきか?


【燭台切光忠と御手杵が一緒にご飯を食べるようになった話】終わり




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